五月は、四月に炉の吊り釜にしていた小ぶりの羽子板釜を、そのまま土風炉にかけて使っています。
「茶の湯は灰作りに始まり、灰作りに終わる。」とよくいわれます。お茶をなさる方は、無論風炉の灰形にも細心の注意をはらっておられることと思います。表千家流では土風炉に鱗灰を施しますが、そこにはそれぞれの個性が表れる様に思います。ネットで調べてみると、流派の違いもあるでしょうが本当に様々で、この鱗を施した方はどんな亭主(ホスト)なんだろうと想像させられます。
お茶を習い始めて数年経つとそろそろ自分の家でお茶を点てたくなります。まず最小限の道具を買って、最初は炭形の電熱器でお湯を沸かしお茶を点てます。でもそのうち物足りなくなって、炭でちゃんと釜をかけたくなります。炭も灰もお道具やさんに売っていますが、そのまま使っていいの?風炉の灰はどうすればいいの?土風炉って?と疑問がいっぱい。
今はお茶に関する本がたくさん出版されています。これは表千家監修の本でカラー写真もたくさんあり、お茶に関する基礎的な知識が分かりやすく書かれています。あとは自分のやる気次第で、書籍から調べたり講習会に参加したり。そして何より師事している先生のアドバイスをいただくことでしょう。
といっても、わたしの教室では土風炉は毎年この時期だけなので、一年たつと「あれっ、どうだったっけ?」となり、最後は妥協で終わってしまいます。まだまだ日々精進です。
いろいろな灰形の作り方があると思いますが、わたしは次の手順で作っています。
土風炉の灰
1.土風炉に五徳を据える
まず土風炉の底に大奉書紙を敷きます。
A・大奉書を二つ折りにして、B・正方形にします。C・四つの角を下に織り込んで、D・八角形にして「わ」を向こう側にして置きます。
その上に灰を少し撒き底瓦をのせて安定させます。五徳をその上に据えますが、その時ハオチが風炉の縁の高さぐらいに調整します。ハオチ(ハツキ、オダレ、毛切ともいいます)とは釜の継ぎ目です。
本来、釜と風炉と五徳はそれぞれセットで持つのが理想ですが、なかなかそういう訳にもいきません。そんな時は上の写真にある五徳台を使います。厚みが3種類あって、五徳の足のある位置の下において使います。微調整は、10円玉をつかうと便利です。
五徳は、風炉の上から見て等分を測って正確に置きます。
2.遠山灰を作る
遠山灰には風炉の大きさによって二つ山と一つ山がありますが、わたしの風炉は小さいので一つ山で作ります。ふるった風炉灰を遠山灰の形に大まかに配します。
灰おさえで前の稜線から仕上げていきます。
続いて奥の山を仕上げた後、前土器を入れます。山の頂上は奥のツメの少し右後ろで、高さは前の稜線と同じにするのが本当ですが、目の錯覚が生じるので頂上の方をわずかに高く作ります。また図のAの傾斜よりBの傾斜の方が、頂上がずれている分角度が急になります。
3.鱗灰をまく
風炉の灰をさらに乳鉢で練り、粒子を細かくします。それを灰匙で軽くおさえ、灰匙の先で灰の表面を少しづつ薄くはぎ取っていきます。
それを先程仕上げた遠山灰の上にまいていきます。といっても高いところから灰をおとすと鱗は壊れてしまうので、優しく置くような気持ちで全体に施していきます。
2回作り直しましたが、今年もここまでかと自分を納得させて終わりました。灰形一つでも、お茶は自分の美意識を問い、育てていくものなのだと思います。表千家流の灰形の作り方についての本は、
お茶のおけいこシリーズ21 『灰形と灰の作り方』 世界文化社
が、写真も多くとても分かりやすく解説してあります。わたしの教室でもこのシリーズの本はお薦めしています。
わたしは、30代のころから自分の灰を作り始めました。灰は年月を重ねて使い続けるほどに色合いや深みが増して、それを育ててきた茶人を物語ると聞いたからです。もしお茶をずうっと続けたいと思われるなら、早くから灰を育てることをおすすめします。灰を育てるとは、釜をかけること。普段着をまとうように、暮らしの中にお茶を取り込んでいけたらいいなと思っています。